
メキシコ法律情報 PART 1 - 労働法
2012年改正労働法による労務管理
2012年12月より施行された「改正労働法」により、次の点が改善された。
1) ― 国家資格を有さない「法律アドバイザー」の排除と追放。
CEDULA(弁護士免許証)登録の義務化
他国同様、メキシコでも、国家資格を有する弁護士のみが、コンサルティングを含む法律業務が認められている。
同国家資格は、CEDULA PROFESIONALと称されている。
しかしながら、「企業法務アドバイザー」と称して、弁護士資格がなくとも法律業務の代行あるいはリーガルアドバイスができると長年に渡り誤解している人たちが、ここメキシコには多く見受けられる。
特に「労働係争」の現場においてはこれが問題視され、2012年からは、資格を有するだけではなく、弁護士登録の義務化が施行された。よって法律業務を行うためには、国家資格を示すCEDULA(弁護士免許)に加えて、裁判所に事前登録することがその条件となった。
本改定により無資格の「企業法務アドバイザー」と自称している人たちは、排除追放される事となるだろう。
(なお、2016年施行の改正刑事訴訟法においても同様の趣旨が盛り込まれている。)
2) ― 労働派遣の定義の法制化。
労働者派遣について、その法的定義が労働法に定められた。
これにより同条件が合致しない場合、すべての労働債務は派遣元(派遣会社)が「連帯責任」を負わせられる事となった。
― 「労働契約上の権利を有する地位の確認」(つまり解雇の無効)について争い、仮に雇用主が敗訴した場合、「賃金相当額の遡及支払い(バックペイ)」の支払いに限度額が設けられる事となった。
1 - その計算方法は、12か月未満にて結審した場合、経過期間のみ。
2 - 12か月を超える場合、12か月分の給与額に加え、15か月分に相当する給与を元本として
年率2%を乗じた金額が、結審されるまでの「みなし給与」として算定される。
(これにより、改正以前に適用されていた、「遡及賃金」を名目とした無制限の逸失給与が廃止される事となった。)
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メキシコ法律情報 PART 2 - 労働法
給与支払明細書について
メキシコでは、電子インボイスの使用義務化の延長として、「給与支払明細書」もデジタル化された。従来のプリントによる給与支払明細書では、税法上は経費と扱えない事となった。
一方、自社の従業員に提訴された場合、労働の対価として支払われた給与(金額および手当)が係争の争点になることがしばし見受けられる。先のデジタル化された明細書には、従業員の署名がなくても有効ではあるが、労働裁判では証拠として認められない可能性がある。
(現行労働法第802条)
そこで、
1- 雇用契約書に中で、税法によるデジタル化の給与支払明細書について同意する旨を記載する。
2- 従来のやり方に準じて、すべての従業員から先明細書に署名させ、保管することが薦められる。
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メキシコ法律情報 PART 3 - 労働法
管理職(マネージャー以上)の就労時間(残業)の管理について。
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メキシコ労働法において、係争に発展した際の「立証責任」について、ほぼ雇用者側が負うことになります。
よって、同法第784条 VIII箇条が定めるように、時間外就労における残業の支払いについても、週9時間を超えない場合に限り、関連する証拠提出は、会社側に求められます。
「信任労働者」とされるマネージャー以上の肩書を有する者については、先の例外を認め、労働時間とその延長を把握する義務が従来の雇用者ではなく、管理職自身に該当すべきとメキシコ最高裁判所が判断をしました。
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メキシコ法律情報 PART 4 - メキシコ投資のまとめ
メキシコで会社設立をする場合の必要要項
1) 会社設立
I.- メキシコ会社法が定める形態。
メキシコにてビジネスを行う場合、以下の形態が採用される。
A. 株式会社(SOCIEDAD ANONIMA : S.A.)
他国に見られる形態と類似するが、次の特徴がある
· 株主の最少人数: 2名 (法人か個人かは問わない)
· 最小資本金の枠が2012年1月から撤廃〔以前5万ペソ〕。額面を決める必要がある。
· 株式譲渡の移転について原則制限がない。
· 株主の責任は、その投資額において制限される。
A.1 取締役会
株主は1名の取締役(sole administrator)、または異なった責任を持つ2名以上の取締役から構成される取締役会を選任することが出来る。
A2. 役員(支配人)
株主または取締役会は、会社業務を執行する1名以上の役員(支配人)を選任しなければならない。
B. パートナーシップ(SOCIEDAD DE RESPONSABILIDAD LIMITADA: S. DE R.L.)
· 最低2名の社員
· 最小資本金の制限が2012年より廃止は。(以前は3,000ペソ。)
· 閉鎖会社なので、資本金を構成する持分の移転は制限される
米国税制の恩恵を受けれることから、メキシコにてビジネスをするためにはこの形態は好都合である。
C. SAPI(投資促進会社)メキシコでの株式上場を目的とした会社形態である。メキシコパートナーとの合弁事業の場合に多く好まれる。
D.2016年に簡易株式会社(SAS)が制定された。この形態のメリットは、会社定款の公正証書が不要であり、また1名でも会社設立が可能となった。しかしながら、年間5百万ペソの所得制限があり、また、完全なまでに税務当局の管理下にある。
最後に、いづれの形態においても、メキシコ税法により、会社代表者の税務状況を証明する義務はある。
II.- 会社設立の手順。
―メキシコ政府よりの許可(会社名取得)
―会社定款の認証
―連邦税務当局への登録(納税番号取得)
―会社の登記所への登記
―外資委員会への登録
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メキシコ法律情報 PART 5 - 「税関 ― 貿易」
メキシコ輸入通関手続きの近代化
メキシコでの輸入手続きにおいては、ペーパーレス化を目的に、税関電子システム(SEA)が導入されて以来、近年飛躍的に簡素化されてきた。
同SEA制度は、従来のSAAIM3から貿易租税管理の新モデル(通称:MATCE)へ移行過程の中にある。(2016年中に2つの段階を経て、実施される予定。)
PEDIMENTOと称するデジタル化された「輸入申告書」の使用が導入される。これらの関連書類を税関に送信することで、QR コード(Quick Response Code)を含んだ申告書(DODA)が発行される。
(例:何枚もの異なる輸入申告書に証明される貨物を、トラック一台にてメキシコへ輸入する場合、先のQRコードを含んだDODAフォームだけで処理される事ができるようになる。)
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メキシコ法律情報 Part 6 - メキシコの移民法
メキシコ在留許可について
メキシコと相互条約を締約している国(日本を含む)の場合、180日を最高滞在日数として、ビザなしでメキシコにて滞在できる。滞在目的(観光等)は限定されたものとなる。
―短期在留について
メキシコにて、有給あるいは無給の形態で在留する場合、以下の手続きの下、在留許可が与えられる。
1 雇用主申請
メキシコ国内にある法人あるいは個人が「雇用主」として、メキシコ移民当局に登録することが第一ステップとなる。
2 短期在留資格の申請。
2.1. 短期在留(最大で4年間)を認めてもらうための申請を行う。同申請書には、給与額、希望就労期間、業務内容等を詳細に記述する。
2.2. 同申請受理の後に、就労する雇用主のもとへ「移民審査官」が赴き検査を行う。
2.3. 同検査結果により、異常がなければ、在外領事館にて面接のための許可証が発行される。
3 ビザ発給のための在外メキシコ領事館での面接。
3.1. ビザ発給における許可証発行後から30日以内にて、係るメキシコ領事館(部)にて面接を行う。
3.2. 問題がなければ、「ビザ」が発給される。180日間の間にメキシコへ入国し、短期在留許可(カード)の発給手続きを行う。
3.3. メキシコ入国の際に、入国用紙を記入し、入国が認められる。
3.4. 同入国日から1か月以内に在留カードへの切り替えが必要となる。
4 在留カードの発行
4.1. パスポートの写し、手続き手数料支払い、その他と共に「入国用紙」を移民局へ提出する。
4.2. 上述の申請後、2週間くらいにて在留許可が発行される。
4.3. 4.2.の許可に基づいて、写真および指紋を含む個人データを移民局へ提出。
4.4. 短期在留カードが発行される。(1年間のみの有効期間付き)
4.5. 更新後は、3年間のみ有効となる。
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メキシコ法律情報 PART 7- メキシコの派遣業務
派遣業務(アウトソーシングおよびインソーシング)の改正について
2020年にメキシコ大統領が提起した「派遣業務 (outsourcingおよび insourcing)」に関して、21年4月に両議院により可決された「改正労働法」が政府により4月23日に公示されました。
「派遣業務」形態の下、違法な仮想行為が摘発されてきた現状を是正するために、原則同制度は廃止されました。
今回の改正を以下のよう要約されます。
― 派遣業は原則禁止。
― 派遣先の会社目的または会社活動とならない専門業務あるいは特殊事業は例外として認める。
― 上述の専門業務または特殊事業を遂行する派遣企業の登録制度を新設。(有効期間は3年)
― 同登録が認めれた派遣会社は、インターネットにて公告される。
― リクルートおよび紹介業はこのまま維持。
― 派遣制度を利用した仮想取引および脱税を防止するために税法も改定された。
― 新法移行のために施行より一か月の期間中に必要なガイドラインを関係省が公示する。
― 現在採用している派遣社員については、自社社員とし登録する義務を負う。そのために90日の移行期間を設ける。